1人の医師がで西洋薬も漢方薬も処方できる日本はユニーク

 最近では医学部の講義で漢方の講義がある大学が増えているようですが、私の学生時代には漢方のかの字も聞いたことがありませんでした。明治維新以来、日本の医学教育は西洋一辺倒。私は東洋思想に親和感が合ったこともあり、学生時代から鍼灸や漢方薬に興味が合ったのですが、東洋医学に興味を示すものは異端児だったと思います。私が診療に漢方薬を利用し始めたのはすでに30年近く前で、驚くような効果も目の当たりにしました。真剣に勉強し始めたのはせいぜいこの5年間くらいですが、それ以前から西洋医学で行き詰まった時、漢方医学が大きな助けとなることを実感してきました。漢方診療が患者さんにとっても医師にとっても福音になることがあると信じています。

 ところで、日本では医療機関で普通のお薬とともに漢方薬を処方してもらうのになんの違和感も無いと思うのですが、これってとても珍しいことのようです。漢方薬の源流中医学の本場中国では、西洋医学と中医学を学ぶ体系は全く別物。西洋医学を治めた日本でいう普通のお医者さんは漢方薬を使うことができません。ところが日本では1人の医師が両方処方する事ができるし、患者さんも両方利用できるのです。

 日本で漢方薬が生き残ったのは、明治時代に漢方の火をたやさない努力をしてくれた医師たち、昭和に保険診療で漢方薬を認めさせた医師会、漢方のエキス顆粒を作り上げてくれた製薬会社のおかげだと思います。そして処方自体は長い歴史の中でその効果が実証されてきたものばかりです。それが今の私たちの役に立つのなら使わない手はないでしょう。

 伝統を利用しない患者さんはもったいない。利用できる一つの医療体系を学ぶ努力をしないまま臨床を行なっている医師にとってももったいない。そんなふうに感じます。

 今の医学的分析や統計学的分析では、なかなか漢方薬の良さを解明することは難しいかもしれません。多成分系の漢方薬の効き方を解明するためには、今話題のAIプログラム、あるいはその次にやって来るであろうさらにレベルの高い分析力が必要となるように思います。なぜ効くのかわからないから使わないという人がいるならば、現在私たちが持っている分析力を過信していると思います。現在の分析でproofは得られないにしても、歴史の中でevidenceは山のように積み重ねてきたという事実を素直に受け入れて利用すれば良いのではないかと思います。効く理由の分析は続けていくとしてもね。

 漢方薬は基本的に病名に一対一対応の体系ではなく、患者さんの訴えや体質を判断してを総合的所見から処方を決めるもの。病名が決まらなければ処方が決まらない西洋医学で行き詰まった方は、ぜひ漢方薬の扉を叩いてみてください。西洋医学で難しいものは東洋医学でも難しいものですが、東洋医学の方が一人一人に寄り添う力は強いと思います。それは医師の資質ではなく、医学体系そのものがそうなっているのです。

 体調コントロールに苦労している方が、1人でも減ることを祈っています。皆いずれ死ぬわけですが、それまでは少しでも良い体調を維持したいと皆願っているわけですからね。

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