漢方治療は経験則の積み重ね

体調に応じて特定の草木を食べたり、ある場所の土を食べたりというように、動物には環境にあるものを摂取して体調を整えていると思われる行動がみられます。人間の場合も、身近にある動植物を口にしたりして健康維持を試みてきた歴史がきっとあると思います。紀元前6世紀ころには、植物や鉱物の効能をまとめたようなものがあったとされていますが、現在の日本漢方につながるものは3世紀初頭に成立したとされる「傷寒論(しょうかんろん)」という医学書です。その頃に出来上がったとされる処方が今も多く受け継がれていることに驚きますが、大陸の医学が日本に渡って以降、日本の気候風土や日本人の体質に応じた処方も作り出されてきました。

検査などない時代に、症状に応じて生薬を組み合わせてきた多くの経験則に基づいて、処方が作り出されてきたわけです。その年月と経験の重みには一定の価値があると思います。現代医学でその効能の理由がはっきりしないからと言って、日本伝統医学を切り捨ててしまうのはもったいないと思います。できることなら、現代医学と伝統医学のいいとこ取りをしたいというのが私の望みです。

一つの生薬の中に多くの成分が含まれ、さらにその生薬を組み合わせて漢方処方が出来上がっています。ですから漢方薬は、一般西洋薬のように単一成分でできているわけではなく、多成分系の薬となっています。多成分ゆえにおそらく現代の科学ではまだ解き明かせない部分があるのだと思います。

体調を崩せばまずは西洋医学的診断体系で検討し、そこで明らかな異常が見つからなかったり十分な治療効果が出なかったりしたときに、漢方薬を利用してみることは悪くないと思います。また普段の体調管理にも利用しやすいお薬です。多くの方が漢方に親しみを持って、少しでも調子のよい日が増えてくれると嬉しいですね。

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