漢方薬を病院で処方してもらうときにつく病名を知っていますか?

健康

 病院で料金を支払うときには保険診療と自由診療ではずいぶん金額が変わってきます。私たちは保険料を支払っていますので、保険診療を受けた際には、医療費の一部を負担すれば良いわけです。一方、自由診療は基本的に保険診療でカバーされない診療を行った際に、医療費の全額を個人が支払うものですから、一般的にこちらは高額になってしまう可能性が高いですね。

 日本の医療は、ほとんどの場合健康保険を利用して行われています。その保険制度のもとで定められた病名に対して、それぞれ適応となる検査法、処置、治療方法などが定められています。そしてそれらは当然西洋医学の枠組みで組み立てられています。決まりから外れる診療を行えば、保険が使えないということになります。そして日本においては、限られた漢方薬が保険診療として使用できますが、使用する際には保険病名が必要になります。

 漢方薬は、長い歴史の中で、この処方はこういう人に使うと良い、というふうに薬ごとに対象となる患者さんが記載されています。漢方処方を決定するときには、その記載されている流れの中で考えるわけです。しかし、保険病名をつけるとなると西洋医学的な表現になりがちとなります。漢方的表現ではうまくいかないということもありるからです。それぞれの処方にたいして保険診療として認められる効能や効果が決められています。一般の方が処方された漢方薬について調べると、保険病名をみることになるとおもいます。するとなぜこの薬が自分に処方されているのかよくわからないということも出てきます。

 乙字湯(おつじとう)の保険病名は、切れ痔、いぼ痔です。ですからこの病名がつかない人には処方ができないわけです。例えば会陰部にかゆみや痛みを訴える方に乙字湯を使うと具合が良くなることがあるとわかっているのですが、痔がない人には使えないわけです。ですから私は、乙字湯を使おうかなと思えば肛門の診察をして、痔の有無を確認しています。そして日本人の半分近くはよく見れば痔主なので、しっかり診断名に痔を加えて処方します。

 女神散(にょしんさん)という処方があります。保険適応は「のぼせとめまいのあるものの次の諸症:産前産後の神経症、月経不順、血の道症」となっています。これをみると女性用の薬だな、とだれでも思うでしょう。しかし男性に出すことだってあるのです。適応中、のぼせ、とかめまいとかの部分で使うわけです。実はこの処方、もともとは安栄湯とよばれ、戦に出ている兵士の不安、動悸、めまい、いらいらなどに使われていたもので、決して女性だけの処方ではないのです。しかしこれを男性に処方すると、まず間違いなく患者さんが「先生、薬間違ってないですか?女性用の漢方薬みたいですけど。」と言ってこられるので処方するときは前もって説明します。

 白虎加人参湯(びゃっこかにんじんとう)の場合は、「のどの渇きとほてりのあるもの。」というのが適応病名になります。病名という感じではないですね。口喝、ほてりがキーワードとなりますので、熱中症、糖尿病、感染症などでこの状態を呈すれば、候補に挙がる処方ということになります。

 漢方処方にたどり着く思考過程は、医師によって微妙に異なっています。なぜ私にこの処方?と疑問に思ったら尋ねてみると面白いかもしれません。ただし、東洋思想と同じように、いわく言い難き所に真実ありみたいなところもあるので、その説明は禅問答のようになるかもしれませんけれど。

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